結論からいうとOKRとは:
OKR(Objectives and Key Results)とは、「組織や個人の目標(Objective)」を大胆かつ明快に設定し、その達成度を測る「主要成果(Key Results)」を数値化してモニタリングするフレームワークです。MBO(目標管理)やKPI(重要業績評価指標)との違いは、“短期スパン”でのレビューと、“挑戦的な目標設定”により、組織全体の方向性を素早く揃えられる点にあります。
近年、GoogleやIntelなどの世界的企業をはじめ、日本国内でも急成長を遂げるスタートアップが導入していることで注目度が増しているOKR。
しかし、「OKRはすごい」「成果が出る」といった表面的な情報だけでは、いざ導入してもうまく機能しないケースも散見されます。
そこで本記事では、他の目標管理手法とOKRの違い、成功と失敗を分ける要因、実際の活用事例をわかりやすく解説します。
OKRの基本概要
OKRは「Objective(目標)」と「Key Results(主要成果)」の2つの要素から成り立ちます。
Objective(目標)
• 「定性的」でインスピレーションを与える方向性
• 例:「新製品の認知度を業界トップクラスに引き上げる」
Key Results(主要成果)
• 「定量的」で客観的に進捗を測れる指標
• 例:「SNSフォロワー数を前年比150%に増やす」「メディア掲載数を月5本以上獲得する」
OKRの特徴は、「目標を高く設定する」ことと「短い期間でチェックとアップデートを行う」ことです。四半期など短期間ごとに進捗状況を見直し、必要に応じて柔軟に修正していくことで、常に成果にフォーカスし続けることができます。
他の目標管理手法との違い
1. MBO(目標による管理)との比較
共通点
• いずれも「目標」を軸にして業績管理を行う
• 個人の行動を企業戦略と結びつける、という考え方は同じ
相違点
• MBOは通常、年度単位で目標を設定し、評価や報酬に直結しやすい
• OKRは四半期など短いスパンで“挑戦的な目標”を設定し、70~80%の達成でも良しとする風土を重視
• 多くの企業はOKRを報酬や人事評価と切り離すことで、失敗を恐れずにチャレンジしやすい環境を作る
2. KPI(重要業績評価指標)との比較
共通点
• 数値を定め、進捗を“見える化”する
• チームや個人の行動をデータで計測し、改善に活かすアプローチ
相違点
• KPIは「必達」の数値目標になりがちで、達成できない=評価が下がると認識されることも
• OKRは「ストレッチ目標」(達成率70~80%でも十分価値がある)を設定することで、創造的な取り組みを奨励
• KPIが細分化されすぎると視野狭窄に陥るリスクがある一方、OKRは大きなObjectiveで常に全体最適を意識
3. バランス・スコアカード(BSC)との比較
共通点
• 「財務視点」「顧客視点」「プロセス視点」「学習と成長視点」など、企業の重要要素を測定する枠組み
• 組織の戦略と日常オペレーションを結びつけるための指針
相違点
• BSCは企業全体の多角的な視点を包括的に管理するため、比較的長期目線の施策管理に適している
• OKRは短期集中で実行フェーズを加速するため、“進捗サイクルの速さ”が決定的に違う
• BSCとOKRを併用し、OKRを“戦略的重点施策”にフォーカスする手法も見られる
OKR成功の鍵は“組織文化”と“心理的安全性”
OKRを導入しても思うような成果が得られない原因の一つに、「挑戦的な目標設定ができない」もしくは「失敗を許容できる雰囲気がない」という問題があります。
挑戦的な目標が生まれにくい組織の特徴
1. 失敗した人を厳しく批判する風土がある
2. 管理職が数値の未達を必要以上に責める
3. 毎日の行動管理に終始し、自由度がない
心理的安全性との関係
• 「意見を言っても否定されない」「失敗しても次の学びにつながる」という空気がなければ、高い目標設定はされにくい
• 経営層やマネージャーが「OKR達成度は失敗しても構わない、そこから何を学ぶかが重要」と繰り返し発信する必要がある
• 失敗を“組織学習の種”と捉えられるようになると、社員が自発的にアイデアを出しやすくなる[1]
具体例:OKR×アジャイル開発の事例
IT企業A社では、アジャイル開発チームにOKRを取り入れ、短いスプリント(2週間)ごとにKey Resultsの進捗を振り返る運用を行いました。
目標の可視化により、スクラムミーティングでも常に「どこまで成果が上がっているか?」を具体的に確認できます。
進捗モニタリング
• 毎週のスクラムでKey Resultsの達成度を数値で共有
• アプリの継続率に関わる機能改修の効果を随時検証し、リリースサイクルを最適化
得られた成果
• チーム全員が“ユーザ体験の向上”にフォーカスし、エンジニア・デザイナー・マーケターが連携
• 機能追加やUI改善案が活発に出るようになり、試作品のテストも迅速化
箇条書き:OKR導入時に押さえておきたいポイント
1. 報酬や人事評価と切り離す
• OKRを人事評価に直結させると、失敗を避けて安全策に走る恐れがある
2. 各チームや個人が“Objective”を言語化できるよう支援する
• 「なんとなく理解している」状態を避け、誰が聞いてもわかる言葉で目標を表現
3. 進捗を追う“チェックインの文化”を定着させる
• 四半期単位のOKRでも、週1など短い周期で振り返る“チェックイン”を実施し、修正を躊躇しない
4. Key Resultsはアウトプットだけでなく“アウトカム”を重視
• 例:成果物の量(アウトプット)だけでなく、「売上」「顧客満足」「継続率」など実際に価値を生む指標(アウトカム)を追う
5. 組織全体の“透明性”を高めるツール活用
• 専用のOKR管理ツールやプロジェクト管理ツールで、達成度をリアルタイム共有
• 例:Googleスプレッドシートやプロジェクト管理SaaS(Asana, Trello, Jiraなど)
まとめ:OKRは“手法”以上に“文化”である
OKRは単なる目標管理の「手法」ではなく、“挑戦的なゴールを全員で追いかける文化”を生み出すための仕組みと言えます。
• 最初は「MBOの延長?」と戸惑いがちですが、失敗を成長に変える組織文化を醸成することで、OKRは真価を発揮します。
• まずは小さなプロジェクトや部署で試し、成功事例を共有しながら、社内に“心理的安全性”と“透明性”を根付かせていくことが重要です。
• 「高すぎる目標を掲げて大丈夫かな?」と不安になるかもしれませんが、そこに新たなイノベーションの芽が潜んでいるかもしれません。ぜひ一度取り組んでみてください。
参考文献
[1] Edmondson, A. C. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383.
[2] Doerr, J. (2018). Measure What Matters: OKRs: The Simple Idea that Drives 10x Growth. Penguin
[3] Felipe Castro, “Why OKRs fail (and how to make them work),” OKR Coach & Speaker (2021).
[4] Slaven, S. F., & Key, M. (2021). The influence of OKRs on organizational alignment: A European SME case study. The TQM Journal, 33(8), 123-145.